2025.10.15_「千葉うみさとラインプロジェクト」を通して印旛沼を考える

第四回　師戸地区の魅力　その②

願船漆工房(がんせんうるしこうぼう）

先月号でご紹介した「ギャラリーわらね」のお隣（北側）に、漆芸作品の制作、展示、ワークショップなどを行っている工房がある。1998年（平成10年）に開設された「願船漆工房」だ。大西長利氏が主宰している。

大西長利　おおにしながとし

1933年（昭和8年）山口県下関市に生まれ

1959年　東京藝術大学美術学部漆芸科を卒業　漆芸の古典を松田権六氏に、精神性を六角大壌氏に学ぶ。

1984年　世界漆文化会議を設立

1991年　東京藝術大学美術学部教授に就任。

1998年　願船漆工房を開設。

2001年　東京藝術大学名誉教授となる。

漆の面白さ・すばらしさに目覚める

大西長利氏は、年少の頃から絵を描くのが好きで、画家になることを目指していたが、芸大入学を目指し都内で受験勉強をされていた頃、六角大壌先生（その後大学で恩師となる）から、「漆」について教わりその素晴らしさに目覚め、漆芸科を目指すことにしたという。

工房では、「人間が生きているというのは、どういうことなのか」「日々の生活に活きる漆芸」といった視点をモチーフに、暮らしの中で感じたことを「漆」という素材を使って表現する「漆芸術」を目指し、ものづくりが行われている。

国内外の後進・継承者の育成　定期的なイベント、展示会の開催

大西先生の指導で、技術と思想を受け継ぎたいと希望する方も多く、若手の育成を行っている。長期間腰を据えて弟子入りする方や土日受講の方が、研修生として国内のみならず海外からも訪れ、お弟子さんたちの活動の拠点にもなっている。定期的に展示会も開催され多くの人に作品が披露されている。

願船とは

「願船」という言葉は、親鸞が著した和讃のなかにある一首から来ており、「阿弥陀仏が立てた本願の教えによって、迷いの世界（生死の苦海）に沈む人々を救済し、悟りの岸（彼岸）へ渡す船」を意味しているという。大西先生のものづくりへの想いとの共鳴があり、これが工房名になった。

世界漆文化会議

　大西先生は、漆芸家としての創作活動や後進の指導だけでなく漆文化の国際的な普及にも貢献してきた。1984年には、日本の伝統的な漆芸だけでなく、世界各地の漆文化や類似の塗装文化も視野に入れ、国境を越えた交流と理解の促進、漆文化の重要性を広め、次世代に継承していくことを目指し、世界漆文化会議を設立した。

1992年、世界漆文化会議シンポジウムの基調講演では次のように「漆文化の継承と普及、発展」を呼び掛けている。時代は3０年以上遡るが、先生の問題意識は今も尚、我々が考えてゆくべき課題と思われるので、ご紹介する。

【日本の近代は明治以後、百年そこそこに過ぎません。漆と人間の関りは、一万年をはるかに超えるものであります。この膨大な漆の歴程の中で発見し想像され、みがかれた漆芸技術は東アジア人父祖の叡智の宝庫なのです。心と物質、環境と自然といった私たちの暮らしに直接関わる問題を考える時、この漆文化が蓄積してきた質的な内容をよくよく見直すことは大変意義深いことだと思います。漆との関わりのなかでいかに人々が暮らしを豊かにし高めてきたかを、そしてこれからの生活にどのようなものを取り入れるべきか、世界漆文化会議を通じ世界の人々に呼びかけ一緒に考えてゆきたいと思います。】尚、願船漆工房設立後、世界漆文化会議の事務局は、東京藝術大学から願船漆工房に移転した。

福多いずみ　さん

福多いずみ　漆芸家（願船漆工房）

1997年　　武蔵野美術大学造形学部　入学

2001年　　武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科木工専攻卒業

2009年から願船漆工房、大西長利氏に師事

2014年　　国際漆展　石川奨励賞受賞

漆の木は、敷地に約80本、ご近所の協力で敷地外でも植樹され、全体で約300本が管理されている

100人中、本当に伝わるのは１人でいい

　大西先生が、いつも話されていました。

多くの人に共通理解、同じ熱量で言葉を届けることはとても難しいもの。色々な解釈、感覚がある中で「１００人いたとして、一人の心に深く残ったならばそれは本物だ。」と先生が常々仰っていました。本当の事を伝えるのはそのくらい難しいと言うこと。また、深く届いた小さな一点一点がつながって行くことが大切であるということです。とても含蓄のある言葉だと思います。

金継ぎ教室　生徒募集

漆を使って割れてしまった器をなおす、『金継ぎ』が脚光を浴びています。漆の美しさは、お椀やお重などで親しまれてきましたが、漆は天然の強力な接着剤出もあるのです。

　講師　福多いずみ

　月１回、水曜日、日曜日　14:00～18:00

　場所　願船漆工房　印西市師戸80

電話　0476-99-0739　

Email gansen@joy.ocn.ne.jp